身體も心も綿の如く疲れきつてゐて

 須田町の乘換に方角を忘れて、今來た方へ引返すのだと許り思つてゐるうちに、本郷三丁目に來て降りるのだといふ。お定はもう日が暮れかかつてるのに、まだ引張り※[#「廴+囘」、第4水準2-12-11]されるのかと氣が氣でなくなつたが、一町と歩かずに本郷館の横へ曲つた時には、東京の道路は訝《をか》しいものだ...

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お八重の發起で街路へ出て見た

 それでも仲々|階下《した》にさへ降《お》り澁《しぶ》つて、二人限《きり》になれば何やら密々《ひそ/\》話合つては、袂を口にあてて聲立てずに笑つてゐたが、夕方近くなつてから、お八重の發起で街路へ出て見た。成程大きなペンキ塗の看板には『山田理髮店』と書いてあつて、花の樣なお菓子を飾つたお菓子屋と向ひあ...

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二人は、不器用な手つきで

 二人は、不器用な手つきで、食後の始末にも手傳ひ、二人|限《きり》で水汲にも行つたが、其時お八重はもう、一度經驗があるので上級生の樣な態度をして、『流石は東京だでヤなつす!』と言つた。 かくて此日一日は、殆んど裏二階の一室で暮らしたが、お吉は時々やつて來て、何呉となく女中奉公の心得を話してくれる...

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