奧樣に濟まぬ樣な氣がする

『其處ン所は何ともお申譯がございませんのですが、何分手前共でも迎への人が來ようなどとは、些《ちつ》とも思懸けませんでしたので。』『それはまあ仕方がありませんさ。だが、郷里《くに》といつても隨分遠い所でせう?』『ええ、ええ、それはもう遙《ずつ》と遠方で、南部の鐵瓶を拵へる處よりも、まだ餘程田舍なさうでございます。』『其※[#「麾」の「毛」に代えて「公の右上の欠けたもの」、第4水準2-94-57]《そんな》處からまあ、よくねえ。』と言つて、『お定や、お定や。』 お定は、怎《どう》やら奧樣に濟まぬ樣な氣がするので、怖る怖る行つて坐ると、お前も聞いた樣な事情だから、まだ一晝夜にも成らぬのにお前も本意《ほんい》ないだらうけれども、この内儀《おかみ》さんと一緒に歸つたら可《よ》からうと言ふ奧樣の話で、お定は唯顏を赤くして堅くなつて聞いてゐたが、軈てお吉に促されて、言葉寡《ことばすくな》に禮を述べて其家を出た。 戸外《おもて》へ出ると、お定は直ぐ、『甚※[#「麾」の「毛」に代えて「公の右上の欠けたもの」、第4水準2-94-57]《どんな》人だべ、お内儀《かみ》さん!』と訊いた。『いけ好かない奧樣だね。』と言つたが、『迎への人かえ? 何とか言つたけ、それ、忠吉さんとか忠次郎さんとかいふ、禿頭《はげあたま》の腹の大《でつ》かい人だよ。』『忠太ツて言ふべす、そだら。』『然《さ》う/\其忠太さんさ。面白い言葉な人だねえ。』と言つたが、『來なくても可いのに、お前さん達許り詰らないやね、態々《わざ/\》出て來て直ぐ伴れて歸られるなんか。』『眞《ほん》に然《さ》うでごあんす。』と、お定は口を噤んで了つた。 稍あつてから又、『お八重さんは怎《どう》したべす?』と訊いた。『お八重さんには新太郎が迎ひに行つたのさ。』

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