東京の家は地震でも搖れたら危い

『さあ、何方《どつら》だたべす。』『何方だたべな。』『困つたなア。』『困つたなす。』と、二人は暫時《しばらく》、呆然《ぼんやり》立つて目を見合せてゐたが、『表なやうだつけな。』とお八重。『表だつたべすか。』『そだつけ。』『そだたべすか。』 軈て二人は蒲團を疊んで、室の隅に積み重ねたが、恁※[#「麾」の「毛」に代えて「公の右上の欠けたもの」、第4水準2-94-57]《こんな》に早く階下《した》に行つて可いものか怎《どう》か解らぬ。怎しよと相談した結果、兎も角も少し待つて見る事にして、室の中央《まんなか》に立つた儘|四邊《あたり》を見※[#「廴+囘」、第4水準2-12-11]した。『お定さん、細え柱だなす。』と大工の娘。奈何樣《いかさま》、太い材木を不體裁に組立てた南部の田舍の家に育つた者の目には、東京の家は地震でも搖れたら危い位、柱でも鴨居でも細く見える。『眞《ほん》にせえ。』とお定も言つた。 で、昨晩《ゆうべ》見た階下の樣子を思出して見ても、此室の疊の古い事、壁紙の所々裂けた事、天井が手の屆く程低い事などを考へ合せて見ても、源助の家は、二人及び村の大抵の人の想像した如く、左程立派でなかつた。二人はまた其事を語つてゐたが、お八重が不圖、五尺の床の間にかけてある。縁日物の七福神の掛物を指さして、『あれア何だか知《おべ》だすか[#「知《おべ》だすか」は底本では「知《おべ》たすか」]?』『惠比須大黒だべす。』 二人は床の間に腰掛けたが、『お定さん、これア何だす?』と圖の人を指さす。

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