謀叛《むほん》

『伴れて行くともす。今朝誰も居ねえ時聞いて見たば、伴れてつても可《え》えつて居《え》たもの。』『雖然《だども》、あの人《しと》だつて、お前達の親達さ、申譯なくなるべす。』『それでなす、先方《あつち》ア着いてから、一緒に行つた樣でなく、後から追驅けて來たで、當分東京さ置ぐからつて手紙寄越す筈にしたものす。』『あの人《しと》だばさ、眞《ほんと》に世話して呉《け》える人《しと》にや人《しと》だども。』 此時、懐手してぶらりと裏口から出て來た源助の姿が、小屋の入口から見えたので、お八重は手招ぎしてそれを呼び入れた。源助はニタリ相好を崩して笑ひ乍ら、入口に立ち塞《はだか》つたが、『まだ、日が暮れねえのに情夫《をとこ》の話ぢや、天井の鼠が笑ひますぜ。』 お八重は手を擧げて其高聲を制した。『あの源助さん、今朝の話ア眞實《ほんと》でごあんすよ。』 源助は一寸眞面目な顏をしたが、また直ぐ笑ひを含んで、『※[#「口+云」、第3水準1-14-87]、好《よ》し/\、此老爺さんが引受けたら間違ツこはねえが、何だな、お定さんも謀叛《むほん》の一味に加つたな?』『謀叛《むほん》だど、まあ!』とお定は目を大きくした。『だがねお八重さん、お定さんもだ、まあ熟《よつ》く考へてみる事《こつ》たね。俺は奈何でも構はねえが、彼方へ行つてから後悔《あとくやみ》でもする樣ぢや、貴女方《あんたがた》自分の事《こつ》たからね。汽車の中で乳飮みたくなつたと言つて、泣出されでもしちや、大變な事になるから喃《なあ》。』『誰《だれ》ア其※[#「麾」の「毛」に代えて「公の右上の欠けたもの」、第4水準2-94-57]《そんな》に……。』とお八重は肩を聳かした。『まあさ。然《さ》う直ぐ怒《おこ》らねえでも可いさ。』

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